接触問題解析プログラムTED/CPA
TED/CPA計算例
78. 差動滑りによる転がり抵抗の計算
 1. DRYの接触セッショク圧力アツリョク分布ブンプの計算
差動滑りによる転がり抵抗の計算例を示します。
計算条件は次のとおりです。
ボール直径 :10 mm 垂直荷重  Fz = 5000 N
内輪軌道半径 :20 mm ヤング率  E = 206 Gpa
外輪軌道半径 :30 mm ポアソン比  ν= 0.3
内輪溝半径 :5.2 mm  滑り摩擦係数  μ= 0.2
外輪溝半径 :5.2 mm  内輪速度  Vxi = 1000 mm/sec
形状と座標系は下図のとおりです。ボールの中心は静止しています。
外輪はおおむね内輪の逆方向に回転しています。
始めに転がり抵抗の模式的な説明を示す。図3,図4,図5はボールと内輪の接触の様子を示したもの
である。ボールの回転角速度ωbと内輪の回転角速度ωrは一定であるとする。図3に示すように接触
面が湾曲しているために純転がりの線を境として内側ではボールの速度 ri・ωbが速く、外側では内輪
の速度 Ro・ωrが速い。純転がりの線上ではボールの速度r・ωbと内輪の速度R・ωr は等しい。ボール
に働く摩擦力Pxは次のように与えられる。
純転がりの線の内側では Px = −μ・Pz    @
純転がりの線の外側では Px = +μ・Pz    A
ここでμは滑り摩擦係数、Pzは垂直接触圧力である。図5に示すように純転がりの線の内側の領域を
Si,外側の領域をSoとし、それぞれの領域に働く摩擦力をFxi,Fxoとする。Fxi,Fxoは次のように与えら
れる。
Fxi = ∫si Px ds      B
Fxo = ∫so Px ds      C
この2つの摩擦力が釣合っていると仮定すれば次式が成立する。
Fxi = −Fxo      D
摩擦力FxiとFxoがボールに及ぼすモーメントを考える。図3に示すようにボール回転軸からFxiの荷重重
心までの距離をriとし、ボール回転軸からFxoの荷重重心までの距離をroとする。明らかに
ri > ro       E
である。ボールに掛かるボール回転軸(Yb軸)回りのモーメントMiは次式で与えられる。
Mi = Fxo・ro + Fxi・ri = Fxo・( ro − ri )  <  0   F
ボールに掛かるモーメントMiは0でなければならないから、D式が成立しないことになる。すなわち総摩
擦力Fxは
Fx = Fxi + Fxo ≠ 0       G
このFxが転がり抵抗である。接触面が湾曲している場合には摩擦力の釣合条件とモーメントの釣合条
件が一致しないことがわかる。
転がり抵抗の計算手順を示す。
図1と図2はボールと内外輪の接触の座標系と記号を示している。Obi, Xbi, Ybi, Zbi はボールと内輪の
接触計算座標系である。Obo, Xbo, Ybo, Zbo はボールと外輪の接触計算座標系である。ボールの中心
Obが静止している座標系で考える。すなわち、外輪の速度Vxoはおおむね内輪の速度Vxiの逆向きで
ある。接触面が湾曲しているために接触点Obiではボールの方が内輪よりも少し速度が速い。その滑り
速度を儼xiとする。同様に接触点Oboではボールの方が外輪よりも少し速度が速い。その滑り速度を
儼xoとする。計算手順は次の通りである。
(A) ボールの滑り速度儼xiを仮定する。
ここでは儼xi = 17, 17.5, 18 mm/sec とした。
(B) 垂直荷重Fzを掛けて、ボールと内輪の転がり接触の計算を実行する。この計算によって転がり抵抗
FxとBallのYb軸回りに掛かるモーメントMiを求めることができる。FxとMiは儼xiの関数である。
(C) 垂直荷重Fzと(B)で求めた転がり抵抗Fxを掛けてボールと外輪の転がり接触の計算を実行する。ボ
ールと外輪の滑り速度儼xoとBallのYb軸回りに掛かるモーメントMoを求めることができる。
儼xoとMoは儼xiの関数である。FzとFxは(B)の場合と逆向きであるからZ方向とX方向の力は
釣合うことになる。
(D) ボールのYb軸回りに掛かる全モーメントMを計算する。Mは次式で与えられる。
M = Mi + Mo      H
Mは儼xiの関数である。M(17), M(17.5), M(18) を求める。
(E) ボールに掛かる全モーメントは0でなければならないから次式が成立する。
M(儼xi) = 0       I
I式が成立するように儼xiを調節する。
3点 ( 17, M(17) ) , ( 17.5, M(17.5) ) , ( 18, M(18) ) を通る2次曲線からM(儼xi) = 0 となる儼xi
を求める。ここでは儼xi = 17.41604 mm/sec であることがわかった。
(F) 儼xi = 17.41604 mm/sec として(B), (C) の計算を実行する。
これでボールに掛かるXZ方向の荷重Fx, FzとYb軸まわりのモーメントMはすべて釣合うことになる。これ
以外の荷重、モーメントは元々0である。(F)で求められたFxが転がり抵抗である。転がり摩擦係数μRは
次式で与えられる。
μR = Fx / Fz      J
計算結果は次の通りである。
転がり抵抗  Fx  =  17.70560509  N
転がり摩擦係数  μR  =  0.0035411
滑り速度  儼xi  =  17.41604  mm/sec
滑り速度  儼xo  =  12.02412  mm/sec
外輪の速度  Vxo  =  1005.39192  mm/sec
(ボール中心が静止している時、内輪が外輪よりも少し遅い)
転がり摩擦係数は滑り摩擦係数よりも2桁小さい。
図6にボールと内輪の間に働く摩擦力の等高線図、図7に同じデータのX軸方向から見たメッシュ図、
図8にボールと外輪の間に働く摩擦力の等高線図を示す。
純転がりの線はかみ合い始め側で広くぼやけている。かみ合い終り側で狭くシャープである。
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